間違った方向に進んでいるのなら、スピードは重要なことではない


生態系政策マネージャーのNです。

先週、持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP)という国際会議に参加してきました。

グリーン・エコノミーについての基調セッションでは、IPCCのパチャウリ議長がまず講演をしました。気候変動の対策をせずに、持続可能な開発はあり得ないこと、気候変動への適応は重要だが、ティッピングポイント(劇的変化が起こる境界線)があることを考えると、気候変動の緩和策は不可欠、また、緩和策の費用は経済成長を1年遅らせる程度ですむ、というような内容でした。

IPCCの第4次報告書をもとにしているので、新しい内容ではなかったのですが、講演の最後に引用していたマハトマ・ガンディーの言葉が印象に残りました。”Speed is irrelevant if you are going in a wrong direction” (間違った方向に進んでいるのなら、スピードは重要なことではない)。
これは、方向音痴な私だから心に響いたわけでも、間違っていることがわかった時に対応する時間が取れるようにスピードが大事などと反論したいわけでもありません。

その後に講演したアジア開発銀行のロハニ副総裁の話では、2050年までにはアジア地域のGDPが世界のGDPの約半分を占めると考えられるが、現在の先進国がたどった成長のモデルを繰り返してたのでは人類に未来はない。経済成長と環境の持続可能性を両立させたグリーン成長が必須だ、というお話でした。

ガンディーの言葉はここでも響きます。

また、グリーン成長の要素として、知識の成長も触れていました。

先の方向音痴の例に戻りましょう。単に道を間違えていたのであれば、戻ればいいのですが、元に戻れない理由が2つあります。

一つ目は、方向音痴だから来た道がわからないこと。これは、伝統的な知識であっても科学技術的なノウハウであっても、その情報が失われたら今あるものが再生できなくなることに似ています。もう一つの理由は、来た道が壊れて戻れないこと。これは、ティッピング・ポイントを過ぎてしまったことと同じです(この場合、方向音痴でなくても戻れませんが)。このような目に合わないための頼りが「科学」だと思います。気候変動が進行した場合の世界の様子は示されていますし、それを回避するためにしなければならないことも示されています。行先までの道のりと危険地帯を示した地図が用意され、手元にあるのです。それを無視して、遭難するような愚行をしようとしているのが、今の世界のような気がして仕方がありません。

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