象と信託基金―神秘の森の未来を守るための支援

※本ブログ記事は1月14日に投稿されたCI本部ブログの記事を和訳したものです。




2003年、初めてカンボジア南西部にあるカルダモン山脈を訪れた際、私は未舗装の道を一日中運転し、複数のボートを結んで作られた不安定なフェリーボートで川を渡りました。森林が道路にせり出し、われわれが通ると野生動物は慌てて逃げて行ったものでした。

それから10年以上が経ち、多くのことが変わりました。現在は道路が舗装され広くなり、タイへとつながっています。川にも橋が並んでいるほか、大部分の森林は劣化しており、また野生動物もあまり見当たらなくなってしまいました。この地域の森林の減少率は、高いところでは30%にも及びます。多くの区画では森林が違法に伐採されました。

しかし、中央カルダモン森林保護区(Central Cardamom Protected Forest: CCPF)の内部では話は別です。

カンボジアのカルダモン山脈には国内でも有数の手つかずの自然が未だ残っている。しかし、この場所も違法伐採や
焼き畑農業などによって破壊の脅威にさらされている (© Conservation International/Photo by David Emmett)

私は去年CCPFを訪れましたが、その際にも生い茂る熱帯雨林の中を歩き周ることができ、絶滅危惧種の野生犬や、希少なテナガザル、サイチョウ、ゾウやクマが残したまだ新しい足跡、そしてシカやイノシシ、ジャコウネコなどの一般的な種も見ることができました。

中央カルダモン森林保護区は、ボウシテナガザル、アジアゾウなど、カンボジアでも希少な動物たちの生息地である
(© Conservation International/Photo by David Emmett)

なぜCCPFの中では、現在でもこのように多くの動物を見ることができるのでしょうか?それは2003年以来、こうした動物の生息地がほとんど損なわれていないためです。事実CCPFは、カンボジアの中で最も手つかずの原生林保護区の一つです。2006年から2012年の間、このロードアイランド州程度の広さの保護地域のうち、森林が伐採された地域はわずか2%で、これはバファーゾーンとなっているCCPF周辺10キロメートル地域の伐採率の15%に比べて非常に低くなっています。このため2003年から10年以上が経った今でも、この保護地域は神秘的です。CIがこの素晴らしい地域を永遠に保全するため、新たな信託基金を創設したことで今後もその魅力を保っていくことでしょう。



豊かな富の源

素晴らしい山景、古代の聖なる墓地遺跡、現存する固有種の数々―これらはカルダモン山脈が持つ多くの富のほんの一部です。

ある研究によれば、材木や作物、森林による炭素貯蔵、材木以外の林産物、生物多様性、淡水、そしてレクリエーションなど、この地域が人々にもたらすモノとサービスを金額に換算すると、10億ドルを優に越えると試算されています。さらにこの地域の森林と河川は、広大なトレンサップ湖システムへ養分を送っており、この湖は1ヘクタール当たりの漁業生産性が地球上で最も高くなっています。同様のサイズであるオンタリオ湖の1ヘクタール当たり3.8kgの漁獲量に比べ、トレンサップ湖では1ヘクタール当たり130kgとはるかに生産性を誇ります。

レンジャーたちが中央カルダモン森林保護区で野生動物たちを記録するためのカメラトラップをセットする
(© Jeremy Holden)

こうした恩恵にも関わらず、中央カルダモン地域を含む全てのカンボジアの森林は、焼畑式農業に起因する違法な伐採や、森林開拓による激しい脅威にさらされています。この脅威は今後も大きくなるとされており、保護区における財政安定化がより重要になってきます。



カンボジア政府初のNGOとの協働

2002年に創設されたCCPFは、カンボジアで最も長い歴史を持ち、大きく、かつ成功している保護区であり、アジアでも最大規模のものです。同保護区は、IUCNのレッドリストに載っている54の絶滅危惧種の重要な生息地であり、3万人の人々へ飲み水を提供し、また、4,120万台の車からの排出量に相当する190トンの二酸化炭素を貯蔵しています。

CCPFは、NGO(CI)とカンボジア政府間では初めてとなる環境保全への協働であり、儲けの大きい違法な野生動物取引や急速な速度で進む開発が自然へもたらす脅威に継続的にさらされながらも、政府のレンジャー、地元コミュニティ、そしてCIスタッフによるたゆまぬ努力のお蔭で保護策は成功しています。

この信託基金を通じ、CCPFはカンボジアにおける環境保全努力を牽引し、長期的な環境保全のために必要となる効果的なモデルを提供していると言えます。しかし、CIとカンボジアの森林管理機関の試算によると、CCPFを適切に管理するために必要な法の執行、コミュニティの関与、そしてリサーチとモニタリングには、50万米ドルの予算が必要であり、これは政府が提供できる額の10倍となります。

新しい信託基金はこの資金不足を補うため、CIのグローバル保全基金とダイキン工業から既に250万米ドルの資金を調達しました。将来的には、保護区を永遠に保つために必要な資金を生むために必要な1000万米ドルの資金を調達したいと考えています。この資金はCIにより管理され、資金委員会によって運用されることになります。

この信託基金は、効果的な森林保全活動のために、安全で透明性が高く、また公正な資金構造を提供し、既に支援の関心を示している国際的な企業を含め、様々なドナーのモデルとなります。

パトロール中のレンジャーたちが川を渡る (© Conservation International/Photo by David Emmett)



森林のオアシス

過去10年間で何度も中央カルダモン山脈を訪れた時を思い返すと、いくつかの特別な瞬間を思い出します。クリスマスイブの夜にゴールデンキャットを間近で見たことや、自然の音以外は何の音もしない静寂な深いジャングルでの時間。カンボジアでは未発見の種や動物を見たこと。テナガザルの赤ちゃんが母親に見守られながら木の上で遊んでいる姿。キャンプの近くで5メートルのニシキヘビを見つけたこと。私たちの頭上をサイチョウの群れが飛んでいくのを目撃したこと。


そして一番思い出に残っているのは、2005年のある夜に、森の中で希少種のカエルを探していたときに、間違ってアジアゾウへ向かって歩いて行ったことです。私が何とかその場から抜け出すと、そのゾウは自分の胸をガラガラと鳴らし、ここは自分の森でありあなたのものではないということを私に示しました。最近トラップカメラが捉えた映像には、この森の中で密猟者や地元のコミュニティ、そして好奇心の強い生物学者から邪魔されることなく生息しているアジアゾウの群れが写っており、その規模はこの10年間で最大でした。

スモッグを引き起こす森林火災と世界中の違法な野生動物取引がニュースを賑わす昨今、環境保全が効果を発揮し、自然が力強く生い茂っている場所を見ることには勇気づけられます。この信託基金が軌道に乗るにつれて、カンボジアの人々が、自然を護ることが単に可能であるだけでなく、必要不可欠であるということを証明できることを望んでいます。


by デイビッド・エメット(CIアジア太平洋地域シニア・バイスプレジデント)



翻訳協力:富永文彦


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