「自然資本」主義的まちづくり 下川町訪問記③

北海道下川町訪問記の第3弾は最終回。前回の続きで、カーボンニュートラルな集落である一の橋バイオビレッジが、エネルギー面で持続可能なだけでなく、「人的資本」への投資にもなっていることを紹介します。また、バイオマスボイラーの燃料である木質チップ工場も紹介し、最後は町長とのダイアログから感じたことを共有したいと思います。


「寒い冬」も自然資本?

第1回で、「寒い冬」が下川町の自然資本アプローチを支えるの重要な条件と書きましたが、日本の総CO2排出量のうち、実は15%は家庭でのエネルギー消費に起因そして、その4分の1が暖房・給湯の熱需要なんです。ということは、この暖房・給湯にかかるエネルギーを再生可能エネルギー(つまりバイオマスボイラーなど!)で供給できれば、家庭からのCO2の排出量をがっつり削減出来るわけです。寒い地域ほど暖房・給湯に必要なエネルギーが多いので、逆にCO2の排出削減ポテンシャルは高いわけです。日本に比べて、ヨーロッパの方が削減ポテンシャルが高い物理的な理由はここら辺にもあります。バイオマスボイラーの導入は、寒い気候と豊かな森林資源という下川町が持つふたつの豊かな自然資本を生かす素晴らしい取り組みなわけです。

バイオビレッジは、散らばっていた集落を集めることで、熱エネルギーの地域供給を実現するだけでなく、コミュニティの再生にも繋げています。バイオビレッジでは、地域おこし隊(地域再生のための人材派遣事業)を導入し、コミュニティ食堂や障害者施設も併設させることで、高齢化、地域再生、ダイバーシティにも貢献しているわけです。また、コミュニティの集いの場、情報交換の場としても機能する郵便局には、各戸から屋根付き渡り廊下でアプローチ出来るようになっていて、豪雪時でもお年寄りでも集い易いように工夫されています!

コミュニティ再生、さらにグリーン雇用も創出

さらにさらに、バイオビレッジでは、高齢者だけのコミュニティにならないように、新規雇用を生み出す投資もしていて、その目的で椎茸栽培ハウスが併設されています。ここでは、椎茸を栽培する菌床に原木ではなく、木材の製材屑を使っています。これは、製材屑の有効利用になるだけでなく、より質や生産量を安定的に管理できるそうです。徹底的に「しゃぶり尽くす」精神がここでも発揮されています。


 <写真上>椎茸工場の中。おが屑を利用した菌床がずらりと並ぶハウス内の気温は常時22−23度
 <写真下>誠に立派な下川町産の椎茸。今は町有も、軌道に乗れば民営化の予定


で、この椎茸ハウス、当然熱を供給するのはバイオマスボイラーで、常時22-23度に維持されてるそうです。これにより、年間を通して、やはり森の恵みである椎茸の生産が出来るとのこと。この施設で年間7000万円の売り上げがあり、パートさん含めて20名ほどを雇用してるそうです。そして、収穫後の菌床は、土壌改良剤に再利用するそうです。ここでも「しゃぶり尽くす」わけです。カーボンニュートラルでカスケードな下川町の椎茸、ちょっと良くないですか!?

下川町のカーボンニュートラル戦略を支える木質チップ工場

木質ボイラーでの熱供給を支えるのが、燃料となる木質チップを生産するチップ工場です。ここが、カラマツ、トドマツ、アカエゾマツなどの町産の切り捨て間伐材、パルプ材を1年かけて自然乾燥して利用していて、年間約3000tのチップを町内11ヶ所の木質ボイラーに燃料として供給してるそうです。売り上げは年間1700万円ほど。木材を一瞬でチップにするチッパーは、ドイツ製で、1台8000万円。

当然、木質ボイラー導入前は、公共施設のボイラーでは灯油を炊いていたわけですが、バイオマスに移行することで、灯油業者(ガソリンスタンド)は、売り上げが減少するわけです。そこで町では、ガソリンスタンドで組合を作ってもらい、チップ工場の運営を組合に委託してるのだそうです。ここでは、3名分のフルタイム雇用が創出されています。
なお、町では、将来的にはバイオマスボイラーによる熱利用に加えて、バイオマス発電の導入も計画中とのこと。素晴らし〜!

ところでお気づきかもしれませんが、バイオマスボイラーもチッパーも欧州製。ドイツやオーストリア、北欧は、木質バイオマス利用技術が進んでるんですねえ、やっぱり。

町長との対話から感じたこと

今回のツアーは、環境未来都市ツアーということで、もちろん森林資源のカスケード利用、バイオマス利用などを中心に見学させて貰ったのですが、下川町ではそれ以外でもコミュニティバス、予約型乗合タクシー、TV電話を活用した見守りサービス、買い物支援などの超高齢化対策にも積極的に取り組んでいるとのこと。まさに環境だけでなく、持続可能な発展、SDGsを体現する町づくりを進めてるんですね。実際、SDGs町づくり宣言のようなことも考えておられるとのこと。ある意味、東京よりもどこよりも、持続可能な発展の最先端を行ってるとも言えるかもしれません。

もちろん、まだまだ国の補助金に頼ってる部分も多く(とは言え、様々なアイディアを生み出し、それを基に中央省庁を説き伏せて補助金を取ってくる努力はすさまじいものがある)、言い換えれば森林が提供する様々な生態系サービスをマネタイズ(内部経済化)できる仕組みをしかけていくことによってのみ、自然資本アプローチが持続できるようになるということだと思います。(懇親会で聞いた話では、町産材を使った棺桶のビジネス化のアイディアなんかも出てました。)

今後は、カスケード利用、バイオマス利用などの供給側の取り組みはもちろん、最終的な消費地における需要の創出(あらたな物的需要を作り出すということでなく、これまでの資源利用の効率化を図るような供給を求める消費者を育てていくこと)に取り組んでいくことが課題かもしれません。それは、町民だけでなく、広く日本の消費者の意識、価値観を変えていくことでもあります。あるいは、町内の林業再生に取り組むと同時に、海外の違法伐採対策や熱帯雨林の保護などの声を上げていくことも、広い意味での消費側の意識変革かもしれません 。(持続的な森林利用の先進地である下川町が熱帯林の保全を訴える、これかなり魅力的だと思うんですけどねえ!)

その意味では、今回のツアーの特別講演をされた日本エシカル協会代表の末吉里花さんのお話しはまさにど真ん中だったように思います。末吉さんの、従来の消費者活動は「権利」を守ることに主眼が置かれてきたが、これからは消費者の選択が環境や社会の持続可能性を左右するという「責任」の部分に焦点を当てる必要があるというお話しには、大いに共感しました。

 <写真上>日本エシカル協会代表の末吉里花さんによる特別公演。ちなみに後ろに見える薪ストーブは、我が家と同じ米ダッチウェスト社製。これも見かけによらずハイテクで、極めて優れた燃焼効率で驚くほど暖かく家を温めてくれます

このように、木材利用のカスケードだけでなく、社会インパクト、町内経済への再投資など、豊かな森林資源という自然資本を基盤とした町づくりの動きをリードしてるのが、町長を筆頭に町役場の職員のみなさんなわけですが、入庁1年目の若手職員を含め、みな伸び伸びと柔軟性のある自由な発想と、アイディアを町内外の人たちにぶつけて行く勇気、すぐに東京でもどこでも行って連携をさぐる腰の軽さを持ち合わせる人材の宝庫なんですね。またそのような風土に惹かれて町外、しかも縁もゆかりもない遠方からIターンで下川町に移ってきた人が少なからずおられるのも、下川町の魅力のようです。
ツアーの最後に町長との意見交換に場があったのですが、なぜこういう人材が揃ってるのかと聞いてみたところ、下川町は、明治から人の出入りが盛ん(鉱山、林業)で歴史的に外からの人を受け入れる風土があること、昭和55年には過疎化が進み町全体が町の将来への危機感が強かったこと、豊かな森林資源を活かそうという想いが強いことなどから、町外からのIターンの人も含めて、人材が集まり、育っているとのことでした。また、エコポイント制度でなどで町民も得するしくみもあり、大胆な自然資本的アプローチの導入への町民の理解も強いと。


<写真上>谷町長(中央)自らツアー参加者とのディスカッション。外部に開かれた気風が、下川町の先進的な(持続可能な)町づくりを下支えしていると実感

先月ブループラネット賞を受賞し、記念講演のために来日したCI理事のパバン・スクデフ氏が言っていたのですが、自然資本の持続的な保全と利用を可能にする唯一の道は、人的資本への投資であると。下川町の環境未来都市は、幅広く人材を集め、バイオマス利用などを雇用の創出につなげるなど、まさに人的資本価値を高めることによって、自然資本の隠れた価値の経済価値化に繋げている好事例といえるのではないかと思った次第です。今後も下川町に注目していきたいと思います!(やすきゅん)

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