生物多様性ホットスポットでは、言語の多様性も保たれているという事実

※本ブログは、CI本部の下記記事をCIジャパンが和訳したものです。
”Language Diversity is Highest in Biodiversity Hotspots” by DR. RUSSELL A. MITTERMEIER

ラッセル・A・ミッターマイヤ―博士

世界を旅して何十年になりますが、地球に暮らす人々の中で驚くほど魅力的な人間の文化に直接触れる機会に恵まれてきました。ブラジル・アマゾンのカヤポ族と呼ばれる人々から、カラハリ砂漠のサン族、そしておびただしい数のメラネシアの多文化に至るまで、それは、実にさまざまなものでした。
先住民族を含んだこれら多様な文化に生きる多くの人々は、じつはもっとも生物学的に豊かな地域に暮らしています。そしてこのような地域はグローバルな生物多様性を維持していく上でカギとなる地域でもあります。たとえば澄んだ水、花粉媒介者や空気など、生態系の機能を循環させるこれらのカギは、地球に暮らす70億人を超す我々人間にとって必要不可欠なものです。
伝統衣装をまとったパプア・ニューギニアの男性。ニューギニア島は地球上最も言語多様性が高い島といわれている。(©Bruce Beehler)
ご存知のとおり世界のグローバル化は進行中で、これらの伝統的な先住民族コミュニティーの多くは忘れ去られているか、もしくは、彼らが本来守ってきた生態系サービスからもたらされる恩恵の平等な分配からしめ出されているように見えます。さらにひどいことには、これらのカギとなる生態系サービスや彼らの居住地は絶えず経済開発の圧力下にあり、素晴らしい文化遺産はかつてないほど消滅の危機にさらされているのです。

私たち科学者は、生物多様性と人間の文化的多様性は強い相関関係がある、と常々考えてきましたが、実際にどのくらい密にそれぞれが関係しているのか、きちんと立証できる方法で定量化されたことはありませんでした。このような状況を是正するため、わたしと仲間たちは、「Proceeding of the National Academy of Science」という科学論文誌に、生物多様性と人間の言語の多様性には強固で根源的な相関がある、という内容の論文を発表しました。

地図1:地球上の生物多様性ホットスポット(地域1~35)と原生自然地域(地域36~40) (©Proceeding of the National Academy of Science)
どの言語が人間の文化的多様性を表す例として適しているか、という議論がありますが、それを可能とする指標を探すことは困難です。言語は、特定の文化に由来しており、他の集団と区別するために使われますが、それはまた、それぞれのグループの世界観を反映しており、それぞれの言語が民族の誇りの源にもつながり、かつ、近隣の集団と差異を明確に区別するための歴史という側面もあります。そのため私たちは生物多様性と人間文化の多様性の相関関係を計る際に、人間の多様性の現れとして言語を最良のツールとして採用しました。

ペンシルバニア州立大学のラリー・ゴレンフロとオックスフォード大学のスーザン・ロマイン、CIからクリスティン・ウォーカー・ペイネミラと私が行った研究の結果は、注目に値するものでした。わたしたちはSILインターナショナルが開発した、現在地球上で使用されている約6,900の言語数を認定している言語多様性データベースを利用しました。これらの言語がどのように分布しているか注目すると[地図2参照]、特に、保全の最優先地域である生物多様性ホットスポットと5カ所の原生自然地域—つまり、CIが過去25年間にわたって中心的課題地域としてきたこれらの地域で、著しい相関が見られたのです。


地図2:2009年における先住民族と非移動型言語の分布地図。赤い地域が高い言語多様性密度を示している。(©Proceeding of the National Academy of Science)
マダガスカル、フィリピン諸島、熱帯アンデス、アフリカのケープ植物相地域など、生物多様性ホットスポットは、元の植生の70パーセント以上がすでに失われている地域で、かつ固有の生物種が多く生息している地域です。つまり、これらのホットスポットで見つかった少なくとも50%の植物種数と42%以上の脊椎動物種は他の地域では見られない固有のものなのです。また、アマゾンやコンゴの森林、そしてニューギニア諸島のような、地球上の最も多く生物多様性が残る原生自然地域では、生物多様性があると同時に、70%以上が手つかずの自然である地域として認められています。

ホットスポットと生物多様性の高い原生自然地域を合わせると、実に少なくとも全植物種の67.1%、脊椎動物種全体の50.2%がその地域にのみ生息していることになります。これらの地域はかつて地表の24%を覆っていましたが、今ではわずか8.1%まで縮小しています[地図1参照]。さらに、絶滅危惧種に目を向けると、それらは次の十数年で絶滅してしまうと予測されていますが、3つのグループの脊椎動物(鳥類、ほ乳類、は虫類)のうち、82~90%の種がこの地域にしか生息していないことも分かっています。

そう、これはとても多い数だといえます…。私たちが将来世代に対して地球に存在している生態系や生物多様性を残していきたいなら、こうした生物多様性ホットスポットと原生自然地域を、陸域保全の最優先地域とすることが最低限求められているのです。

言語の多様性と相互関係、そのメリットについて話を戻しましょう。わたしたちの研究では、これらのずば抜けて生物多様性が高い地域には、世界で知られている言語のうち70%(4,824)が使用されている地域であるということが分かりました。さらには、これらの多くの言語が消滅の危機にさらされています。他の研究によると、このうち50~90%の言語は今世紀が終わる前に消滅してしまう恐れがあると推測されています。

多様な言語が培ってきた文化も含めて、これらの言語の多様性に目を向けると、30%以上の言語が実に10,000人以下の話者たちによって伝承されており、そのうち28%は1,000人以下の話者によって保たれていることが分かっています。しかもそれらはすべて生物多様性ホットスポットと原生自然地域内に存在しているのです。まとめていえば、世界の3分の2近くの言語が10,000人にも満たない話者によって伝承され、その言語はこれらの保全優先地域にしか存在していない、ということであり、しかもそれらの先住民族グループは今も自然の生態系システムに強く依存しながら日々の生活を送っています。

種の多様性と言語の多様性の関係性については実に多くの学説が存在します。一つの学説は生物多様性ホットスポットのような、地域の豊富で多様な資源へのアクセスが、 その地域の人々を他の集団との接触を減少させ、他の集団とのコミュニケーションの必要性、他集団との資源分担の必要性を減少させている、ということです。別の学説では、植民地化の時代において、ヨーロッパ諸国は主に温暖な気候の地域に拡大していったため、いまだに生物多様性と言語の多様性が最も高い熱帯地域の人々との接触は限定されていた、という説です。例えば、ニューギニアの高地は、世界で最も多様な言語が存在する島ですが、1930年代まで外部のものによって探検されることはありませんでした。

理由の如何にかかわらず、今回の研究結果はCIのスローガンである、“人間が生きていくためには、自然が必要。”という言葉を最低限裏付けるものでした。また、自然を保護するということと人間文化を保つという努力は緊密に関連し、そのようなアプローチを取ることでお互いに真の意味でのウィン・ウィンの関係を構築できる、ということを示しています。

言語の絶滅を防ぐため、生物多様性ホットスポットや原生自然地域の保全に、短期間で効果が上がるようわたしたちの努力をさらに加速させなければなりません。そうすれば、私たち人間の持つ文化的遺産と言語の多様性を保全する機会が増大する、とわたしは信じています。




ラッセル・ミッターマイヤー博士はコンサベーション・インターナショナルの執行副理事長です。動物学者、作家であり、IUCN副理事長、種の生存委員会霊長類専門家グループの議長でもあります。


翻訳協力:中村 歩

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